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東京高等裁判所 平成12年(行コ)10号 判決 2000年6月28日

訴訟人

須田文夫

右訴訟代理人弁護士

桜井和人

被控訴人

本庄税務署長 佐野榮日出

右指定代理人

大圖明

須藤哲右

中沢信明

磯野宏

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し、平成三年一一月二四日付けで控訴人の昭和六三年分の所得税についてした更正処分のうち、総所得金額一二九七万一〇〇〇円、分離短期譲渡所得金額六一万六七一五円、分離長期譲渡所得金額三一七九万二六七五円、納付すべき税額六一四万一七〇〇円を超える部分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(ただし、いずれも審査裁決により変更された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じて、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実欄の「第二当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決六頁六行目の「譲渡益のうち原告に係る」を「譲渡に係る」と、同七頁四行目の「本件株式」を「本件株式四〇〇〇株」と、同八頁七行目から八行目にかけての「本件株式の原告の譲渡益と石原ら三名の譲渡益」を「控訴人名義の本件株式の譲渡益と石原ら三名の名義の本件株式の譲渡益」と、同一〇頁六行目の「本件若泉土地上に」を「本件若泉土地及びこれに隣接する永徳屋所有の土地(以下「永徳屋隣接土地」という。)上に」と、同九行目の「本件若泉土地」を「永徳屋隣接土地及び本件若泉建物等」と、同一二頁四行目の「本件銀座土地の一部に有していた」を、「本件銀座土地について有していた」と、同一三頁八行目から同九行目にかけての「その所有建物について本件銀座土地の借地権を」を「右建物の所有を目的として本件銀座土地借地権を」と、同一五頁末行の「取得した際の、」を「取得するために要した経費、すなわち、」と、同一六頁五行目の「株式」から同七行目末尾までを「株式会社下山商事に対し支払った一〇〇万円と武井包光に対し支払った三〇万円の合計額である。」とそれぞれ改める。

2  同二八頁三行目末尾の次に改行して次のとおり加える。

「控訴人及び石原ら三名が早稲田開発から本件株式を取得したのは、中田不動産の所有する土地建物(以下「本件中田土地建物」という。)からの立ち退きを渋るテナントの権利主張や民事介入暴力による被害等といった早稲田開発内部の深刻な事情が存したため、早稲田開発としては、本件株式を佐野及び控訴人の各知人に譲渡して取りあえず矛先を何人かに分散させる必要があり、控訴人及び石原ら三名としても、将来価値が増加することを予測して借金をしてでも本件株式を購入しておけば損はないと考えたことによるものであり、石原ら三名が控訴人に名義貸しをしたなどという事実はない。」

3  同二九頁九行目の「本件若泉土地に隣接する土地」を「永徳屋隣接土地」と、同三〇頁九行目から一〇行目にかけての「永徳屋の資産として、帳簿上計上されていない。」を「永徳屋の帳簿上その資産としては計上されていない。」と、同三一頁二行目及び四行目の各「本件銀座土地の借地権相当額」をいずれも「本件銀座土地借地権相当額」とそれぞれ改める。

二  当審における当事者の主張

1  控訴人

課税庁側は、早稲田開発に対する法人税法違反容疑事件の査察を長期間実施し、関係者多数の取調べや大量の書証の押収をしたが、結局、早稲田開発は同法違反の罪に問われることなく、査察は終了した。しかるに、被控訴人は右査察において各種の「証拠」を収集したことを奇貨とし、右「証拠」に基づき控訴人に対し所得の申告漏れがあるとして本件更正処分及び本件各賦課決定処分を行った。

右の経過から明らかなとおり、右各処分は、課税権力を恣意的に行使して、「違法収集証拠」に基づきされたものであって、違法である。

2  被控訴人

控訴人の主張は争う。

第三証拠

原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「理由」一ないし六に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

(一)  原判決三三頁三行目の「(七)(2)及び(3)、(八)(2)及び(3)、」を「(七)(1)、(八)(1)」と、同一〇行目の「第三ないし第一〇号証」を「第三号証、第六ないし第一〇号証」と改め、同一〇行目の「第一七号証」の次に「第二〇号証の一ないし三、第二一号証の一ないし三、第二二号証の一、二、」を加え、同一〇行目から一一行目にかけての「第六ないし第一〇号証」を「第六、第七、第一〇号証」と改める。

(二)  同三四頁三行目冒頭から同四七頁三行目末尾までを次のとおり改める。

「1 MUC企画に対する本件株式の譲渡の経緯等について

(一) 本件株式の取引当事者ないし関係者

(1) 控訴人は、永徳屋商事株式会社(以下「永徳屋商事」という。)の代表取締役であるが、昭和五七年四月二〇日、パチンコ店を営む早稲田開発の全株式を取得して同社を買収し、昭和六一年四月一一日までその代表取締役であった。佐野は、昭和五八年四月、足利銀行を退社して早稲田開発に入社し、昭和六一年四月一一日、早稲田開発の代表取締役に就任し、控訴人から、同社の全株式の譲渡を受けた。

(2) 石原は、昭和五一年、控訴人が代表取締役に就任している本庄食品株式会社(昭和六二年四月、株式会社アカギの前身である日本ベロー株式会社と合併)に入社し、その後、永徳屋商事の役員に就任した。

原田は、同人が約三〇年前に飲食店に勤めていたころ、客として来店した控訴人と知り合い、それ以来親しい友達として付き合っており、また、今井は、昭和五八年ころ高崎市内の喫茶店に遊びに行ったときに控訴人と知り合い、その後親しく友達として付き合っている。

(3) 深町金市(以下「深町」という。)は、足利銀行本庄支店に勤務していた当時、取引先の会社の代表者であった控訴人と知り合い、その後、昭和五八年六月、足利銀行を退職して控訴人の経営する永徳商事に入社し、入社と同時に早稲田開発に出向し、その後、早稲田開発の監査役に就任した。小林昇(以下「小林」という。)は、運送業を営む上里産業株式会社(以下「上里産業」という。)の代表取締役であるが、同社は、控訴人が経営する食品会社を得意先としており、小林は控訴人とは仕事上及び私的な付き合いがあった。片見佶(以下「片見」という。以下、深町及び小林と併せて「深町ら三名」という。)は、昭和六二年四月、足利銀行から控訴人が代表取締役をしている日本ベロー株式会社へ出向し、同年五月、副社長に就任して、その再建に当たり、同年八月足利銀行を退職し、同時に永徳屋商事の副社長に就任し、昭和六三年、その代表取締役に就任した。

(二) 早稲田開発による本件株式の取得とその譲渡の交渉

(1) 早稲田開発は、昭和六二年一一月三〇日、中田不動産からその発行済みの本件株式全部七二〇〇株を取得した。早稲田開発は、右株式を取得するに当たり、住宅総合センターから四億五〇〇〇万円を借り入れ、その際、右株式に係る株券を担保として住宅総合センターへ差し入れた。住宅総合センターは、控訴人らからMUC企画への右株式の売却に伴う株券の引渡し及び代金の支払が行われた前日である昭和六三年一一月二九日までこれを中央信託銀行大宮支店の貸金庫に預けていたが、右株券は、住宅総合センターの担当者により同日右貸金庫から出庫され、同月三〇日、本件株式の売買の決済場所であった昭栄ハウジング株式会社(以下「昭栄ハウジング」という。)の事務所に届けられた(乙第一号証)。

(2) 早稲田開発の代表者である佐野は、昭和六三年三月ないし四月ころ、昭栄ハウジングの代表取締役である梁瀬祐右(以下「梁瀬」という。)に対し、本件中田土地建物を代金九億円程度で売却したい旨、また、売却の方法としては、本件中田土地建物が中田不動産の資産の大部分(九三・八一パーセント)を占めているので(原判決添付別表二の一参照)、中田不動産の発行済みの本件株式全部七二〇〇株を売却する方法によりたい旨話をし、右売却の斡旋を依頼した。しかし、当時、本件中田土地建物については、入居者がいてその明渡しの裁判が係属中であったことなどから、梁瀬は、右依頼を直ちに承諾しなかった(乙第二号証)。

(3) 昭和六三年一〇月ころ、右明渡しの裁判につき和解が成立したので、佐野は、梁瀬に対し、再度、本件株式七二〇〇株を和解費用を上乗せした代金一一億円で売却してほしい旨話をし、右売却の斡旋を依頼した(乙第一及び第二号証)。梁瀬は、本橋誠一とその息子の本橋雄虎(以下「本橋」という。)に対し右売却の話をしたところ、本橋の経営するMUC企画が本件株式七二〇〇株を購入することになった。

(三)  早稲田開発から控訴人らへの本件株式の譲渡と控訴人らからMUC企画への本件株式の譲渡

(1) 本件株式のMUC企画への譲渡に先立って、本件株式七二〇〇株のうち四〇〇〇株については、昭和六三年一〇月二九日に、早稲田開発から控訴人及び石原ら三名の各人名義に各一〇〇〇株ずつが代金合計二億九四〇〇万円で譲渡され、また、残りの三二〇〇株については、同月二八日、早稲田開発から佐野名義に一〇〇〇株が、深町及び片見名義に各八〇〇株が、小林名義に六〇〇株が代金合計二億四四〇〇万円で譲渡された。そして、右の本件株式の取引に関し、石原ら三名及び深町ら三名の各人の名義で有価証券取引書(甲第二号証の四の一、乙第一三ないし第一五、第二〇号証の一、第二一号証の一、第二二号証の一)が作成された。

深町ら三名は、佐野らから、本件株式を売買するについて名義を貸してほしい旨の依頼を受け、これを承諾し、右のような有価証券取引書を作成したものである(乙第一、第四及び第五号証、第一六及び第一七号証。甲第六号証のうち右認定に反する部分は、乙第一及び第五号証に照らし採用できない。)。

(2) 右(1)のとおり、早稲田開発から石原ら三名の各人名義に本件株式が一〇〇〇株ずつ各七〇〇〇万円で譲渡されているが、石原ら三名が本件株式の購入資金を自ら支出した事実はなく、石原ら三名が平成四年四月に控訴人あてに作成した確認書(乙第一三ないし一五号証)では、その資金はすべて控訴人が用意したことになっている。

(3) 深町ら三名は、佐野から、本件株式の購入代金額について、一〇〇〇万円を用意するよう指示され、いずれも昭和六三年一一月二九日、深町は、伊勢崎信用金庫から五〇〇万円を、残り五〇〇万円を実父からそれぞれ借り受けて、小林は、上里産業振出の小切手で一〇〇〇万円を借り入れて、片見は、足利銀行から一〇〇〇万円を借り入れて、これらをそれぞれ佐野名義の預金口座に振り込んだ。

(4) 昭和六三年一〇月二八日付けで、佐野を貸主、深町ら三名を借主とし、深町及び片見が各五六〇〇万円を、小林が四二〇〇万円をそれぞれ借り受けたとする各「借用金之證」と題する書面(乙第一六号証、第二〇号証の三、第二一号証の三)が作成された。右金額は、深町ら三名の名義で取得された本件株式の代金額と一致している。

また、同月二九日付けで、控訴人を貸主、石原ら三名を借主とし、石原ら三名各人がそれぞれ五〇〇〇万円を借り受けたとする各「借用金之證」と題する書面(甲第二号証の二、乙第一三ないし第一五号証)が作成された。

右「借用金之證」に記載の借入金額について、佐野と深町ら三名との間、控訴人と石原ら三名との間で、利息、担保等の取決めがされた形跡はなく、当事者間で右借入金額の金銭が授受された事実もない。

(5) 本件中田土地建物の明渡しは昭和六三年一一月中に完了し、本件株式七二〇〇株は、昭和六三年一一月三〇日、控訴人及び石原ら三名並びに佐野及び深町ら三名の名義でMUC企画に売却された。なお、本橋は、梁瀬から、本件株式の売買代金の支払について、売買契約締結日の二、三日前に売買に際して額面の異なる数枚の小切手で支払うよう依頼されたので、梁瀬からの指示どおりの額面の小切手を三菱銀行吉祥寺支店で作成しておいた。

右売買契約の締結は、昭栄ハウジングの事務所において行われ、本橋は、同所において、株券の確認を行った後、代金の支払のため持参した小切手(額面総額一一億円)を佐野に渡し、佐野から三通の領収書を受け取った。なお、本件株式は、いずれも優先株や普通株の区別がないものであり、早稲田開発から控訴人ら各人の名義を経て、MUC企画に同一時期に譲渡されたものである。

右領収書三通のうち、一通は「原田他3名代表石原武彦」作成名義の金額が四億五六五〇万円のもの(甲第二号証の七、乙第一三号証)、一通は「片見他3名代表深町金市」作成名義の金額が四億五八一〇万円のもの、残りの一通は中田不動産への貸付金及び金利分として早稲田開発が受領した金員に係る金額一億二五四〇万円のものであった。なお、本橋は、梁瀬に対し、手数料として六〇〇〇万円を支払った(乙第一ないし第三号証)。

MUC企画は、本件株式七二〇〇株を買い受けるに際しては、総額一一億円ということで代金額を決めたものであり、一株の金額と株数により代金額を決めたものではない。また、MUC企画は、帳簿上、本件株式七二〇〇株を九億一四六〇万円で取得した旨記載しているだけで、右株式を前所有名義人からそれぞれいくらで取得したかということは記載はしておらず、実際にも前名義人に対する売買代金の分配がどのようにされたかについては把握していない。

(6) 石原ら三名及び深町ら三名は、本件株式のMUC企画への売買に係る昭和六三年一一月三〇日付け有価証券取引書(甲第二号証の四の二、乙第一三ないし第一五号証、第二〇号証の二、第二一号証の二、第二二号証の二)を作成したが、石原ら三名作成の各有価証券取引書に貼付された印紙代は控訴人が負担し、深町ら三名作成の各有価証券取引書に貼付された印紙の代金は佐野が負担した(乙第五号証、第一三ないし第一五号証、控訴人本人尋問の結果)。

深町ら三名の名義の右有価証券取引書は、佐野の指示により、右売却後の平成元年一一月か同年一二月ころに日付を遡らせて作成されたものである。石原ら三名の名義の右有価証券取引書は、控訴人の指示により作成されたものであるが、いつごろ作成されたかは明らかでない。

(三) MUC企画への本件株式の売却に係る代金の分配

(1) 控訴人は、控訴人名義による本件株式の譲渡により二億四三五〇万円の収入を得、昭和六三年分の確定申告においてその譲渡益を一億五九五〇万円と申告した(原判決添付別表二の二参照)。

佐野は、同人名義による本件株式の譲渡により三億〇一五〇万円の収入を得、同年分の所得税の確定申告においてその譲渡益を二億一一五〇万円と申告した(原判決添付の別表二の二参照)。

(2) 前記(二)(1)、(6)の有価証券取引書によれば、石原ら三名は本件株式一〇〇〇株ずつをそれぞれ七〇〇〇万円で購入し、これをMUC企画にそれぞれ七一〇〇万円で売却し、一〇〇万円の譲渡益を得たことになるが、石原ら三名はいずれも控訴人から本件株式の譲渡益名義で一〇〇万円を渡されている(甲第一号証、乙第一三ないし第一五号証)。

しかし、石原ら三名の各人名義による本件株式の取得、売却について、売買の交渉、資金の調達、売買代金の授受、本件株式の購入及び売却に係る各有価証券取引書、「借用金之證」等の関係書類の準備はすべて控訴人ないし佐野が行っており、石原ら三名は控訴人に指示されるまま右有価証券取引書、「借用金之證」に氏名等を書き込むなどしてその作成に関与したにすぎない。また、石原ら三名は、本件株式のMUC企画への売却について有価証券取引税を支払ったことはない(乙第一号証、第一三ないし第一五号証)。

(3)ア 深町は、昭和六三年一一月三〇日、佐野から、本件株式のMUC企画への売買代金として授受した小切手のうち額面五七〇〇万円のものを受け取り、同日、これを取立て、同年一二月七日、銀行等からの借入金合計一〇〇〇万円を返済し、一〇〇万円を妻名義の預金とし、その後、佐野からの求めに応じ、同月二一日、四六〇〇万円を佐野に渡した(乙第五号証)。

イ 小林は、昭和六三年一一月三〇日、佐野から右小切手のうち額面四二六〇万円のものを受け取り、これを自己の銀行口座に預け入れた。そして、同年一二月七日ころ、右口座から一〇〇〇万円を引き出して上里産業に返済し、平成元年一月一三日ころ、三二〇〇万円を引き出して佐野に渡し、手元に残った六〇万円を受領した(乙第四号証)。

ウ 片見は、昭和六三年一一月三〇日、早稲田開発の事務所において、佐野から前記小切手のうち額面五七〇〇万円のものを受け取り、同年一二月一日これを自己の預金口座に入金し、そのうち一〇〇〇万円を自己の借入金の返済に充て、同月二〇日に四六〇〇万円を佐野の銀行口座に振込み、残りの一〇〇万円を受領した(乙第一六号証)。

エ 深町ら三名の各人名義による本件株式の取得、売買について、深町ら三名は佐野に名義を貸しただけという認識であり、佐野の依頼で各人が本件株式の購入資金として一〇〇〇万円を用意させられたほか、売買の交渉、資金の調達、売買代金の授受、本件株式の購入及び売却に係る各有価証券取引書、「借用金之證」等の関係書類の準備はすべて佐野が行っており、深町ら三名は佐野に指示されるまま右有価証券取引書、「借用金之證」に氏名等を書き込むなどしてその作成に関与したにすぎない。また、佐野ら三名は、本件株式のMUC企画への売却について有価証券取引税を支払ったことはない(乙第一号証、第四及び第五号証、第一七号証)。」

(三) 同四七頁四行目の「若泉土地」を「本件若泉土地」と、同一〇行目の「本件若泉土地に隣接する土地」を「本件若泉土地に隣接する永徳屋所有の土地(永徳屋隣接土地)」と、同四八頁三行目の「永徳屋所有の右土地」を「永徳屋隣接土地」と改める。

(四)(1)  同五一頁八行目冒頭から同五三頁一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「(一) 前記三1で認定の事実を基に、本件株式七二〇〇株のMUC企画への譲渡の主体が誰かについて検討する。

(1) 石原ら三名及び深町ら二名の各人名義による本件株式の取得、売却について、売買の交渉、資金の調達(ただし、前記のとおり、深町ら三名は佐野の依頼によりそれぞれ一〇〇〇万円を用意した経緯がある。)、売買代金の授受、本件株式の購入及び売却に係る各有価証券取引書、「借用金之證」等の関係書類の準備はすべて佐野ないし控訴人が行っており、石原ら三名及び深町ら三名は控訴人ないし佐野に指示されるまま有価証券取引書、借用金之證に氏名等を書き込むなどしてその作成に関与したにすぎない。また、石原ら三名及び深町ら三名の名義の本件株式のMUC企画への売却に係る有価証券取引書に貼付された印紙代は、控訴人及び佐野が負担しており、石原ら三名及び深町ら三名は、本件株式のMUC企画への売却について有価証券取引税を支払ったことはない。

特に、深町ら三名は、佐野から名義を貸してほしい旨依頼されて本件株式の取引に関与したものであることが明らかである。

(2)  石原ら三名が作成した「借用金之證」が存在するけれども、右借入金については利息、担保の取決めがないこと、右「借用金之證」は昭和六三年一〇月二九日付けで作成されているところ、同年一一月三〇日に本件株式のMUC企画への売却がされると、控訴人は石原ら三名の各人名義の本件株式一〇〇〇株の代金七一〇〇万円から七〇〇〇万円を差し引き、これを右貸付金の返済に充てたこととし、石原ら三名との間では右貸付金の授受を行っておらず、控訴人は石原ら三名の各人に対し本件株式の譲渡益名義で一〇〇万円を渡したにとどまることが認められ、これらの事実からすれば、「借用金之證」をもって控訴人と右三名の間に金銭消費貸借契約が成立したものとみることはできない。

石原ら三名は、右「借用金之證」に記載の五〇〇〇万円のほかにも、控訴人からそれぞれ二〇〇〇円を借り受けたと供述し、その旨の控訴人あての確認書を作成しているけれども、これについても、利息、担保の取決めはなく、実際上の金銭の授受がないことは右五〇〇〇万円の場合と同様であり、このことからすれば、右供述から控訴人と石原三名との間に右二〇〇〇万円の金銭消費貸借契約が成立したものと認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(3)  深町ら三名が作成した「借用金之證」も存在するけれども、右作成日付は、いずれも佐野が後日、日付を遡らせて作成させたものであり、右借入金については利息、担保の取決めがされていないこと、右三名は、本件株式の売却代金の支払のため交付された小切手を預かり、それぞれの名義の銀行預金口座に入金し、後日、右入金額から一〇〇〇万円及び各人の取分(名義貸料)を控除した額を佐野に交付していることなどからすると、右「借用金之證」をもって佐野と右三名の問に金銭消費貸借契約が成立していたものとみることはできない。

(4)  弁論の全趣旨によれば、控訴人らの本件株式の譲渡益は原判決添付別表二の二<1>記載のとおりであると認められるところ、控訴人及び佐野名義の譲渡株式は、いずれも一〇〇〇株であり、本件株式数に占める割合は一三・八九パーセントである。しかるに、これを売買に係る譲渡益でみると、控訴人名義の本件株式の譲渡益は一億五九五〇万円で本件株式七二〇〇株の譲渡益合計額に占める割合は四二・三五パーセントであり、佐野名義の本件株式の譲渡益は二億一一五〇万円、右の割合は五六・一六パーセントである。

これに対し、石原ら三名及び深町ら三名の名義の譲渡株式は、それぞれ六〇〇株ないし一〇〇〇株であるが、その譲渡益はそれぞれ六〇万円ないし一〇〇万円となっており、これらの譲渡益を合計しても右譲渡益合計額に占める割合はわずか一・四九パーセントにすぎない。

なお、前記認定のとおり、本件株式は、いずれも優先株や普通株の区別がないものであり、早稲田開発から控訴人らの各人の名義を経て、MUC企画に同一時期に譲渡されたものである。

(5)  以上の(1)ないし(4)に記載した事情に加え、乙第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、佐野は、本件株式のMUC企画への売却に当たり、前橋税務署に赴き、有価証券の取引について非課税となる方法を教えてもらいたい旨依頼し、担当者から本件株式の譲渡が非課税となる要件について説明を受け、その知識を有していたことが認められ、控訴人と佐野の関係からして、控訴人も佐野からその点に関する説明を聞いてその知識を有していたものと推認されるのであって、これらを考え併せれば、控訴人及び佐野は、いずれも、本件株式七二〇〇株の譲渡に係る譲渡益に対する課税を免れるため、控訴人においては石原ら三名の名義を、佐野においては深町ら三名の名義を利用して本件株式の取引を行ったものと認めるのが相当である。そして、石原ら三名の名義による株式の売買については、控訴人がその売買の手続を指図し、購入資金の調達等を行い、深町ら三名の名義による本件株式の売買については、佐野がその売買の手続を指図し、購入資金の調達を行っていること、本件株式のMUC企画への売却に係る代金の領収書も、「原田他3名代表石原武彦」作成名義のものと「片見他3名代表深町金市」作成名義のものとに分けて発行されていること等を考慮すれば、石原ら三名の名義による本件株式の譲渡益は控訴人に、深町ら三人の名義による本件株式の譲渡益は佐野にそれぞれ帰属するものと認められる。

甲第一、第三号証、第七号証、第一〇号証、乙第一三ないし第一五号証、控訴人本人の供述のうち右認定に反する部分は、たやすく採用できない。」

(2) 同五四頁五行目の「不合理性はないと主張し、」から同九行目末尾までを「不合理性はないと主張する。」と改め、同一〇行目冒頭から同五五頁六行目末尾までを次のとおり改める。

「しかしながら、株式の価額は、本来、会社の資産状態及び経営状態等により定められるものであり、本件株式七二〇〇株が優先株や普通株の区別がないものであり、早稲田開発から控訴人らを経てMUC企画に同時期に譲渡されていることからすれば、本件株式の一株当たりの価格は同額とされるのが常識的であると考えられる。しかるに、控訴人及び佐野名義の譲渡株式数は各一〇〇〇株であって、控訴人名義による本件株式の譲渡益の全譲渡益に占める割合は四二・三五パーセント、佐野名義による本件株式の譲渡益の右割合は五六・一六パーセントであるのに対し、石原ら三名及び深町ら三名の名義による譲渡株式は六〇〇ないし一〇〇〇株であるのに、その譲渡益の合計額が全譲渡益に占める割合はわずか一・四九パーセントにすぎないのであって、控訴人が主張する本件株式の売買価格の形成に対する寄与を考慮に入れても、右のような譲渡益の分配は正常な取引の範囲内のものではなく、極めて不自然、不合理なものといわなければならない。この点に関する控訴人の主張は採用できない。」

(3) 同五五頁七行目冒頭から同五六頁六行目末尾までを次のとおり改める。

「(2) 控訴人は、控訴人及び石原ら三名が早稲田開発から本件株式を取得したのは、本件中田土地建物からの立ち退きを渋るテナントの権利主張や民事介入暴力による被害等といった早稲田開発内部の深刻な事情が存したため、早稲田開発としては、本件株式を佐野及び控訴人の各知人に譲渡して取りあえず矛先を何人かに分散させる必要があり、また、控訴人及び石原ら三名としても、将来価値が増加することを予測して借金をしてでも本件株式を購入しておけば損はないと考えたことによるものであると主張する。

しかしながら、乙第三号証によれば、右立ち退き交渉は、石原ら三名が本件株式を取得したとされる昭和六三年一〇月二八日ころには、和解交渉が成立し、本件株式のMUC企画に対する売却の際、本橋が本件中田土地建物を検分したときには、立ち退きが完了した状態であったことが認められるのであって、右の時点で早稲田開発には、民事介入暴力による攻撃を回避するため本件株式を分散しなければならないというような事態は存在しなかったものというべきである。また、同月二〇日ころには、MUC企画が本件株式を購入することが決まっていたというのであり、早稲田開発代表者である佐野らが既に転売先の快まっている本件株式を石原ら三名にその取得資金を貸し付けてまで購入させるというのは、不自然なことといわざるを得ない。この点に関する控訴人の主張も採用できない。」

(4)  同五七頁七行目の「前記三1(七)」を「前記三1(二)(1)」と、同五八頁九行目から一〇行目にかけての「早稲田不動産」を「早稲田開発」と改める。

(5)  同五九頁九行目の「以上より、」から同六一頁三行目末尾までを次のとおり改める。

「以上のとおり、石原ら三名の名義による本件株式の譲渡益は控訴人に帰属するものであるから、控訴人が本件株式の譲渡により得た譲渡益は、控訴人名義による本件株式の譲渡益一億五九五〇万円に石原ら三名に対して本件株式の譲渡益名義で支払われた各一〇〇万円、合計三〇〇万円を加えた一億六二五〇万円となる(原判決添付別表二の二)。」

(6)  同六二頁三行目の「一億二五〇〇万円」を「一億六二五〇万円」と、同五行目の「全株式に対する総額で」を「全株式を一括して評価した価額で」と改める。

(五)  同六五頁四行目から五行目にかけての「原告ではない以上、」を「控訴人ではないから、」と改める。

(六)  同六六頁二行目の「被告が、」を削除し、同六七頁四行目の「相当であり、」を「相当である。したがって、」と改め、同六行目の「これを必要経費として認めるのが相当である。」を「本件銀座土地の譲渡価額からこれを控除した金額をもって本件銀座土地の譲渡に係る収入金額と認めるのが相当である。」と改める。

2  当審における控訴人の主張について

控訴人は、本件更正処分は、課税権力を恣意的に行使して、早稲田開発に対する法人税法違反容疑事件の査察の過程で得られた違法収集証拠に基づきされたものであって、違法である旨主張する。

しかしながら、収税官吏が国税犯則取締法に基づく調査によって収集した資料を課税処分を行うために利用することは許されるものと解される。そして、弁論の全趣旨によれば、本件においては、査察官が調査を実施して資料を収集し、関係当事者から事情を聴取し質問てんまつ書等を作成するなどしたが、その過程で、早稲田開発の代表者である佐野及び控訴人の本件株式の売買に係る所得税の申告漏れがあると判断されたため、通知を受けた管轄税務署において右質問てんまつ書等の資料に基づいて本件更正処分等を行ったものと認められ、本件更正処分等が課税権力を恣意的に行使してされた違法な処分であるということはできない。また、右査察官が調査の過程で収集した資料が違法収集証拠であるとする事情を認めるに足りる的確な証拠はない。控訴人の右主張は採用できない。

二  以上の次第で、控訴人の本件請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 北山元章 裁判官 青栁馨 裁判官 竹内民生)

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